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個室待機

松「T子ちゃんがいた、あとの店は全部個室待機だった?」竹「いや、控室のあるヘルスも二カ所あった。それはそれで楽しい。イヤな女がいるけど、気持ちのいいのもいるから、そういうのとしゃべっているのは楽しいよ。でも、お店ではプライベートの話はしないし、こっちも聞かない。聞くとしても、せいぜい出身地くらい。"実家はどこ?""北海道""へえ"という程度で、それ以上は突っ込まない」前に登場した「フレッシュ・メロン」の満里奈ちゃんもこう言っていた。

「同じ早番のコで、暇なとき、しほちゃんと話しているのは楽しいよ(前項に書いたように、しほちゃんがこの店の指名トップで、彼女もまた暇な時間はフロントに出てくるタイプ。満里奈ちゃんがナンバーツーだから、トップ会談なのである)。でも、どうでもいい話をしているだけ。彼女は人間を観察するのが好きで、"今日はこんな人が道にいた""電車の中でこんな人を見た"とか、そんな話ばっかりで、しほちゃんがどんな生活しているか、どうしてこの仕事をしているか聞いたことないし、これからも聞くことはないと思う。
しほちゃんとは、店の外で会ったこともないし、電話番号も知らない。遅番のコでは、電話で話したり、一緒に買い物に行くのがいるけど、それ以上の付き合いにはなりにくくて、なんとなく、こういう仕事をしていると、深いことを聞いちゃいけない気がする」松「でも、ストレスの発散もあって、控室でしゃべるコはよくしゃべるよね」竹「すでにおわかりのように、アタシも実はよくしゃべる方なんだけどさ。

格式の高さ

他の店のボーイさんに"今日は天気がいいね。元気にしてる?"なんて声をかけられて、"元気、元気"なんて立ち話しちゃったりしてさ(笑)」松「その分、あの町は人情味が厚くて、困ったときは皆が助けてくれるって言う」竹「アタシは困る前に辞めちゃったから、わかんない。でも、今の時代はそういうのって、流行んないと思うなあ」流行らないかもしれないし、お手軽で素人臭い風俗全盛の風潮は吉原にも着実に押し寄せてきているが、吉原くんだりまで行くからには、他とは違うサービス、風格があって欲しいと個人的には思う。

吉原のソープに入った知り合いが言っていたが、その店の指名トップのおねえさんは非常に優しく、最初に控室に入っていったら、あちらが正座して「初めまして、今日子と言います。よろしくお願いしますね」と挨拶をしてきたそうだ(控室はどこも畳かカーペット。日本人はこうじゃなきゃ落ち着けません。なお、今日子というのは本当の源氏名。興味ある方は探してみてくださいな)。「ああいう性格の人が結局はお客さんの受けがいいんだろうね。

でも、やっぱりイヤな女もいてね。トップクラスじゃなくて指名数をすごく気にしているようなコが、イジメとかをやるんじゃないかな」と新人ソープ嬢の彼女。彼女は今までソフト風俗にいたのだが、「やはり吉原は厳しい雰囲気がある。町自体が異質だし、男子従業員もすごくピッチリしている」と言い、今でも吉原はあらゆる点で格式の高さが残っている町なのだ。

吉原風俗

とりわけ吉原は格式が今でも重んじられる(ソープ特有の習慣、用語についても、本書で取り上げるつもりだったが、その余裕がないため、これについてはまた別の機会にやりたい)。松「昔ほどじゃないが、ソープは今でも上下関係がはっきりしていて、キャリア10年なんていうおねえさんが控室を仕切っていたりする(ソープ嬢は平均年齢が高いためか、「おねえさん」という呼び方をよくする)。

南智子さん(代々木忠監督のAVで脚光を浴びた風俗嬢。現在も渋谷の店で働いている)が言っていたけど、彼女がソープで働いていた時代は、帰る際に、控室の畳に額をつけて、先輩たちに"お疲れさまでした"とやらなければならなかったって」竹「今でも年齢の高いおねえさんがいる店だと、そういうのはありそう。

それと、ソープは男子従業員もうるさいんよ。出勤のときの服装にまでロ出しするしさ。アタシなんて、普段、汚い格好しているから、店長から"誰が見ているかわからないんだから、ジーンズじゃなくてスカートをはけ"と怒られたよ(笑)」松「新宿や池袋じゃそんなことは言われないだろうが、吉原は情報が筒抜けで、ロケーションからして、出勤時の姿まで見られやすいから、他店の手前というところもあるんだろうな」竹「アタシは、缶ジュース飲みながら、歩いて出勤していたからね(吉原は鶯谷、上野、浅草、田原町、入谷のどの駅からも遠く、地元に住んでいるのは別にして、ほとんどの女のコはタクシーを使うか、男に車で送ってもらっている)。

情報通

T子ちゃんは、情報通のくせに、決して積極派とは言い難い。竹「控室のある店は好きじゃない。しゃべるのが嫌いというより、個室待機だと、暇な時間にグッスリ寝られるじゃん(笑)」松「店によっては、控室でパンツ丸出しにして寝ているコもいるけどね」竹「アタシがいたところは、どこもそういう雰囲気じゃなかったな。ソープの控室で寝ていて店長に怒られたこともある。

あと、控室での人間関係は面倒ではあるよ。その店は個室にいてもいいんだけど、保健所タイムといって、保健所が検査に来る時間帯は、コンドームとかマットとか全部隠して、控室にいなければならない。見栄っ張りで、ウソ話ばかりしている虚言癖とか、ソープのおねえさんは他の業種に比べると面倒なのが多くて、その時間がイヤだった。土日は保健所タイムがないから気が楽」忘れがちだが、日本には売防法があるのだから、管理売春はダメ。風営法によってマットプレイもダメ。それどころか、女のコが裸になるのさえダメなのだ。

そんなハズがないことくらい保健所も警察も知ってはいるが、一応、形だけは検査をする。検査をした際にコンドームやマットがあったら形だけは摘発する。形だけでも摘発されたら、実質営業停止になったり、場合によっては許可を取り消されたりするのだから、バカバカしいが、保健所タイムの対策をする。こういう点だけではなく、ソープはあらゆる点で特殊だ。本番があるために、一般社会から、また他の風俗からも蔑まれる傾向があるが、ソープにはソープのプライドやプロ意識があり、仲間意識も強い。

 

顔出し

一昔前に比べれば、気楽に顔出しをし、「バレたらバレたとき」と楽観的に構えているコも確実に増え、友達や彼氏にさえ隠していないコもいる。こういうコほどあっけらかんと風俗関係者との人脈を作ることになる。以上の話はいくぶん無理やりに類型化した風俗一般の傾向であり、例外は膨大にある。

顔出しはするのに、風俗嬢同士の交流を嫌うのもいれば、絶対にバレてはマズい既婚者なのに堂々顔出しをしているのもいる。しかもかなりの数いる(既婚者だからといって必ずしもバレてはマズいわけではなく、離婚を前提に金を作っているケースや夫公認もいるのだが)。また、風俗嬢同士の交流をさほど持っていないのに、取材の人間には人懐っこく話しかけてくるのもいる(これも多い。自分自身を売り込むために話しかけているのだ。)

私らが足の引っ張り合いとは無関係の場にいるせいだろうか)。大阪の回春エステで働くT子ちゃんも、ちょっと変わったタイプになるかもしれない。松「君も顔出しNGだよね」竹「うん。顔を出すと、一時は稼げるけど、リスクが大きすぎる。回春エステなら、顔出ししなくても十分稼げるしね。もともと大阪の出張マッサージにも興味あったし、一石二鳥かな。」T子ちゃんは風俗以外の仕事をすることもあるため、顔がバレるのはマズいのだ。T子ちゃんのように、顔出しNGで、あちこち転々としているわりにはさほど同業者の友人が多いわけでなく、同僚と仕事のあとで飲みに行ったり、踊りに行ったり滅多にしないようなタイプでも、「カルトQ」で私に勝てるだけの情報を持っている。また、このような風俗嬢の増大によって、経営側にもいくらかの変化を及ぼしているところがある。この辺の事情は次項で。
風俗嬢といっても、中身は普通の女の子。たまたまバイトを探したのが谷九の風俗の求人だったというだけの、普通の女の子なのである。